音なきものに音を聞く。面白いことばの表現、日本語のオノマトペについて考えてみる。

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文字だけを読んでいると、どこかおかしくなるおそれがあるが、いまの人たちは、そのことを考えない。

ことばは声で生きる。

古くなると消えるから、冷凍して文字化・文章にするのである。

文字、文章はいわば冷凍言語である。

『新聞大学』(外山滋比古著)より

僕らが発する声は文字という記号におきかえられた時点で、話した時の微妙なニュアンスがなくなってしまいます。

 

たとえば、

笑顔で優しく「こんにちは」というのと、

元気よく「こんにちは」というのは、文字にしたら全く同じじゃないですか。

変化をつけるとしたら、せいぜい「!」をつけて元気の良さをあらわすくらいしかできません。

文章だけで自分の思いだったり、その熱を伝えるのはその道のプロでもかなり大変な事だと思うんです。

(だからこそ文字で心を動かされた時はすげーって感動するんですが)

!って便利だよね。

そう考えると、声よりあやふやな音をことばにしたり、ましてや音じゃないものをことばにするオノマトペってめちゃくちゃ面白い冷凍方法だと思うわけです。

オノマトペとは「擬音語」と「擬態語」を総称した言いかたです。

擬音語は『ブクブク』や『コケコッコー』などの物音や動物の鳴き声など、人間の発声器官以外のものを人間のことばであらわしたものです。

擬態語は『ゆらゆら』や『どきどき』などの、ものの様子や心の動きをことばであらわしたものです。

たとえば、心臓の鼓動が早くなることを「胸がドキドキする」なんて言ったりします。

ですが、実際に心臓から『ドキドキ』なんて音はしてないわけです。

毎回「心臓の鼓動が早くなってる」と説明するのは大変なので、その様子を『ドキドキと分かりやすく短い言葉に置き換えたわけですね。

あとはニワトリが鳴く声は日本語だと『コケコッコー』といいますが、英語だったら『cock-a-doodle-doo(クックドゥードゥルドゥー)』とあらわします。

もしかしてアメリカのニワトリは日本とちがって「クックドゥードゥルドゥー」と鳴くのか?いや、きっと聞こえてる音は同じはずですよね。

 

だとしたら、この違いは音に対する感性や世界の切り取り方の違いなわけです。

 

ちなみに中国語だと雄鶏は『喔喔(ウォウォ)』雌鶏は『咯咯(グーグー)』とオスとメスは鳴き声が違うと感じてるよう。ここらへんも面白いところ。

認識できないことは言葉にできませんから、きっと中国は僕らよりニワトリに馴染みがあるんだと思います。

だって、ニワトリの鳴き声がオスとメスで違うって思ったことないもんなぁ。

こんな感じでオノマトペってその人たちの音のとらえ方や感性、世界の切り取り方がそこにあらわれるんですよね。

これは外国語と比べてだけではなく、日本語の中でも違うし、さらには人によっても違ったりするんです。

この違いが大学で語学を研究していた僕としては「あ、そんな表現もあるんだ!」って気づきがあって面白くてしょうがない!

そこで今回はそんなオノマトペの面白さについて、皆さんにもちょっとでも知ってほしいと思い、まとめてみました。

目次

マンガのオノマトペ(ジョジョの場合)

『ジョジョ立ち』と呼ばれるキャラクターの個性的な立ち方など、その独特な世界観で読む人を魅了する人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』

最新シリーズではジョジョリオンという名に。

このマンガ、オノマトペも独特で面白いんです。

まずはこちら。

何をしているかは見ればわかると思いますが、一応念のために説明させてもらうと、これは銃撃シーンではありません。キスです。接吻です。

普通キスの効果音って「チュッ」とか「ブチュッ」なんですが、ジョジョの場合

「ズキュゥゥゥン」

なんです。

「ズキュゥゥゥン」ですよ!「ズキュゥゥゥン」!間に「ゥ」が3つ入るほどの激しさです。

キスの表現として斬新すぎるでしょ!と思うけど、

まるでピストルで撃ち抜かれるような激しさ

とりあえず普通のキスではないことは、ことば1つで伝わってきます。

 

さて、お次はこれ。

メメタァ!

メメタァ!ってなんだよ!

そんなツッコミを入れたくなりますが、これぞ荒木ワールド。

これ何が凄いかって、意味が分からなくても受け入れるしかない言葉の強さ。

カエルを潰す効果音なんてあまり意識したことないですが、意識したことないだけに何だか受け入れてしまいます。

僕らは知らず知らずのうちに、頭の中に蓄積された豊かなオノマトペの中から似たものを探して、それがどんなものかイメージします。

 

でも、いっっくら探しても「メメタァ」に近い言葉が見つからないんです。

だから「もう荒木飛呂彦先生がメメタァというなら、この音はきっと『メメタァ』なのでしょう!」って受け入れるしかないんですよ。

『メメタァ』ってどんな感じ?と考え始めている時点で荒木飛呂彦先生の術中にはまっているわけです。

頭の中をのぞいてみたい。

絵という表現にくわえて、その使い方次第で独特な世界観が生まれるオノマトペ。

特に空想の世界だとなおさらその言葉の力が引き立ちます。

にしてもよく『メメタァ』なんて言葉を思いついたなぁ(笑)

児童文学のオノマトペ(宮沢賢治の場合)

オノマトペでその人の世界の切り取り方が分かるとすれば、宮沢賢治のオノマトペはとても幻想的な切り取り方をしています。

宮沢賢治作品のオノマトペを見ると「この人には世界はどう見えていたんだろう」と頭の中を覗いてみたくなります。

たとえば、これ。

風の又三郎の中に出てくる、このフレーズ。

吹く風がどれだけ激しいかというのをあらわしたオノマトペですけど、最近の大型台風でもこんな表現は出来ないですよね。

せいぜい『びゅーびゅー』とか『ごうごう』がいいところ。

しかし、それよりももっと強い全てを吹き飛ばしてしまいそうな激しさと、さらには異様な怪しさを『どっどどどうど』からは感じます。

 

次は国語の教科書にも載っている『やまなし』に出てくるクラムボンの笑いかた。

2匹のカニがクラムボンは『かぷかぷ』わらったよ。と言います。

かぷかぷ…笑うの?それだけ聞いたら、何をあらわしてるか分からないオノマトペです。

クラムボンが何かは分からないけど、カニの仲間か、それとも水辺の生き物だとしたら『かぷかぷ』笑いそうな気がしないでもない。初めて聞いたけど(笑)

他にも有名な『銀河鉄道の夜』の中には、光が不規則に点滅するようすを『ぺかぺか』と表現したり、同じ光のオノマトペに『ガリガリ』があったりします。

宮沢賢治のオノマトペには独創性がありながら、その様子をちゃんとイメージさせる絶妙な言葉の選び方なんですよね。

あと宮沢賢治のオノマトペの面白いところは、言葉にリズムがあるんです。

NHKの『にほんごであそぼ』では実際に歌にして歌うシーンがいくつかあったけど、歌にしても違和感なくすんなり入ってきます。

他にも色々見てみましたが、児童文学のオノマトペというのはそのものがメロディやリズムをもっているものが多い気がします。

エロのオノマトペ(官能小説の場合)

あと面白いのが官能小説のオノマトペ。

エロの言葉の表現って割と似たようなものが多くて、マンガ全般に言えますけど絵で個性を出すことの方がおおいんですよ。

女性には分からないと思いますが(笑)

でも、官能小説では使えるのは文字だけ。だから言葉の表現の幅がグッと広がるんです。

それこそ官能小説のオノマトペについて研究してる人もいるくらいです。

と、ここで問題です。

次の言葉は官能小説で使われているオノマトペですが、一体何をあらわしているでしょうか?

『てぷてぷ』

『きゅうるり』

『じゅむン』

 

もしこれを読んでる人の中に女性がいたら、その人に嫌われたくないので、ここでは答えを書きません(知りたい人は自分で調べてみてください)

ただ物語の内容だけじゃなく、オノマトペにまで気を配って表現しようとしていて、エロの世界もなかなか奥が深いんです。

たった1枚のヌード写真の破壊力に文字で対抗しなければいけないのだから、これはなかなか大変。

むしろSFマンガや小説のようなファンタジーの世界より、僕らにとってより身近でリアルなテーマ。

たった1枚のヌード写真の破壊力に文字で対抗しなければいけないのだから、これはなかなか大変です。

エロは視覚的な要素が強いジャンルな分、官能小説は言葉の表現に気を遣うのかもしれません。

 

マンガや動画とは違った次元の上質な文学としてのエロ。

僕も一度は読んでみたいと思うんだけど、なかなか勇気が出ません(笑)

あわせて読みたい
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方言のオノマトペ(沖縄の場合)

ここまではジャンル別のオノマトペを見てきましたが、今度は地方で差があるオノマトペ。

僕は沖縄出身なのですが、標準語と思って話していた言葉が東京で全く伝わらなくてビックリしたことがあります。

それが『むちゃむちゃ』ということば。皆さんはこの言葉を聞いて、どんなようすを想像しますか?

 

 

正解は『べたべた』

沖縄では『べたべた』することを『むちゃむちゃ』といいます。

厳密には、ニュアンスの違いはあるんですが…

上京した時、この『むちゃむちゃ』が伝わらなくて「これも沖縄だけの言葉なのか!」と驚いたことがあります。

日本にはたくさんの方言がありますが、オノマトペにもそれぞれの地域独自のものがあるようです。

たとえば、岩手や宮城では息切れや動機で胸が苦しいことを『はかはか』するというそう。

もし病院に行って「はかはかする」と言っても、お医者さんが地元の人じゃなかったら伝わらなくて大変そうですね。

あとは沖縄で言えば、忙しそうに『ばたばた』することを『あわてぃーはーてぃー』なんて言ったりします。

あとは料理の人参しりしりの『しりしり』もそうです。

「『しりしり』ってどんなものか説明して」とよく言われますが、そう言われても上手く説明できません。

だって、『しりしり』は『しりしり』だもの!

こういう器具を使って人参をしりしりします。感覚的には「する」に近い。

各家庭のオノマトペ(僕の友達の場合)

最後は僕の友達の話。

僕の大学時代の友達は『しゃもじ』のことを『へごへご』と呼んでいました。

その子の住んでる土地の方言かと思いきや、なんでもその子の家オリジナルの言葉なんだそう(笑)

その子の家では、炊き上がったご飯をしゃもじでほぐす様子を『へごへご』すると言うとのこと

そこから派生して『へごへご』する道具のしゃもじそのものを『へごへご』と呼ぶようになったようです。

地域という括りよりもさらに小さい、その家だけ自分たち家族だけにしか通じない言葉があるってちょっと面白いですよね。

おふくろの味じゃないけど、それぞれの家庭オリジナルの料理や習慣があるように、オリジナルのことばも生まれるのかもしれません。

そんなオリジナルのことば、あなたの家にはありますか?


日本語は数ある言語の中でもオノマトペがずばぬけて多い言語でその数はなんと5000種類!

英語は1000種類なので、その数は約5倍!僕らの話す日本語はこんなにも面白い表現をする言葉がたくさんあるんです。

なので、ぜひ今度本を読んだりするときはオノマトペについて、ちょっと考えてみてくださいね(^^♪

参考書籍・サイト

 

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